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――後編では『FREEDOM』全体を振り返ってお聞きしますが、監督はこの『FREEDOM』を手がけるにあたって、どういった作品にしようと思われましたか?

森田 一言で言うと「元気な作品」ですね。すごく頭悪そうですけど(笑)。僕の性格もそうだし、僕が集めたスタッフが元気な人たちばかりで、現場に元気があったんですよ。だったら、この元気さを活かす作品にしたほうがいいと思ったんです。そういう意味では現場が作品を引っ張ってくれたかもしれないですね。

――アニメ業界全体を見渡して元気のある作品があまりないと感じたりは?

森田  それはありますね。昨今のアニメはなんだか暗い作品が多い気がしていて、だからこそ「元気なものを作りたい」と思ったところはあります。シンプルでストレートな元気のある作品って、できそうでなかなかできないんですよ。でも今回は結果的に奇跡的に優秀かつ本当に元気のある、活きのいいスタッフが集まってくれたんで、それが可能になりました。みんなの元気に僕も救われたし、作品も救われました。

――結局、監督として『FREEDOM』に携わって足掛け何年ですか?

森田 2年半ですね。27歳から29歳までの2年半。

――30歳手前の年齢じゃなきゃできない作品に?

森田 確実にそうですね。僕もあと数年したら暗くなったり、元気がなくなったりするかもしれないわけで(笑)。でも「若いから元気」ってわけじゃないですからね。それは脚本をやってくれた佐藤大さん見てて思いますよ(笑)。大さんは本当に元気ですから。『FREEDOM』を作るうえでよかったところは僕の年齢というよりも、現場全体の平均年齢が低かったことじゃないかなと思います。CGI監督が26〜27歳で、そのほか30代と20前半がちらほらいる。たぶん平均年齢が25〜26歳くらいなんですよ。そこがすごくよかった。そのうえに大先輩のアニメーターさんたちもいますしね。

森田修平(もりた・しゅうへい)
1978年、奈良県生まれ。京都造形芸術大学在学中より映像制作をはじめ、1999年に3DCG映像制作会社「神風動画」の立ち上げに参加。神風動画と平行し、スタジオ4℃でもCGIスタッフとして活動。2003年より独立し、「YAMATOWORKS」を立ち上げ、『カクレンボ』を制作。東京国際アニメフェア2005公募作品一般部門優秀作品賞、カナダのファンタジア映画祭ショート映画部門金賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品賞などを受賞する。その後、『FREEDOM』に監督として参加。デジタルアニメの新旗手として注目されるひとり。









――確かにアニメ業界全体見渡してもなかなかないスタジオですよね。

森田 「本当にいい状況で、いいスタッフで、いい人たちに囲まれてできた。運がいいね」っていうのは色々な人に言われることだし、僕自身も本当にそう思います。僕らは毎話毎話、作り終えたあとにみんなで反省会をしてたんですよ。みんなを集めて「ここがダメだった、あれがダメだった」って話から「スタッフで回しあっているチェックシートなのにコーヒーのシミがついている」とかを(笑)。しまいには「あの人の机のまわりが汚い」とか「お前の身の回りが汚い」なんてことまで、みんなで話し合って(笑)。そこで出た問題点が回を追うごとにどんどんクリアされていったんです。これは頭が硬いとなかなかできないんですよ。だって、みんな反省会なんてやりたくないわけですから(笑)。でもそれを受け入れてくれて、みんな子供のように集まって反省会ができた。そこは頭の柔らかさ、若さがあってのことだと思います。

――では監督が『FREEDOM』をやるにあたって自身で掲げた目標は?

森田 じつは僕はもともと脚本が苦手だったんです。ストーリーやドラマを書くのが得意ではなかった。だからこそ『FREEDOM』は、前作の『カクレンボ』で描けなかった「人間を描く」ことを目標にしたんです。それは僕自身の挑戦でもあったし、3DCGという技法の挑戦でもあった。どうしても3DCGでは人間を描きにくいですから。3DCGに関しては、当初、脚本家さんたちにも3DCGに対して遠慮や不信感があったと思うんです。だからこそ脚本家に信用してもらえるかどうかが『FREEDOM』では重要でした。なにせ僕が苦手とするドラマを作るうえで彼らの力は必須ですから。その結果、制作の途中で大さんが「3DCGだから遠慮してたのに3DCGでもこんなことができるんだって思い知らされました」って言ってくれて。それは嬉しかったですよ。つまり、まわりの人たちが「3DCGだから」ということでかけているネガティブなリミッターを僕らの力で外せたわけで、そこから脚本も人間ドラマになっていった。『FREEDOM SEVEN』はその極みだと思います。僕が苦手としていたドラマと3DCGが苦手としている人間を『FREEDOM』シリーズを通してようやく描けるようになったという気がしているし、『FREEDOM SEVEN』ではあるひとつのハードルを越えられたかなと思っています。

――『FREEDOM』に対してアニメ業界全体がOVAであることと、3Dであるということで他人事にしてしまっている印象を受けます。そういう意味ではファンは当然のことながら、アニメ業界の人たちにひとりでも多く見てほしい最終話ですね。

森田 確かに「3DCGだから」ということでいろんな遠慮のある業界ですよね。僕からすれば「そんなもの関係ないな」と思うんだけど、それは僕ら作り手がちゃんと証明してないからなんですよ。それはいままで作られてきた3DCG作品が問題なんだと思います。そこはいままでの3DCG全体が歩んできた流れに原因があって、3DCGを作る側が技術ではなく、表現力を身につけてないという問題なんです。だから僕はそこをちょっとずつでもいいから変えたい。『FREEDOM』を作ったことによって、『FREEDOM』に関わってた人たちは、いろいろなことを経験したし、考えさせられたと思うんですよ。メーカーもそうだし、プロデューサーもそうだし、関わってくれた作画さんもそうだろうし。そのうえで次に繋げて行ければと思ってます。例えるなら、やっぱりロケットの打ち上げなんですよ。打ち上げに参加した人間たちはちゃんとなんらかのものを得て、それがつぎに繋がっていくんだって思ってますから。

――物語の最後でタケルは「火星を目指す」と言いますが、監督は次にどこを目指しますか?

森田 僕は初心に戻りますね(笑)。なかなか初心に戻るのは難しいんですよ。でも僕は作品を作り終えたときはいつも「初心に戻ろう」と思うんです。というのも、完成度でいうと昔の自分の作品って嫌いなんです。ただ「この作品を作ってたときの自分の勢いってすごいよな」と思い返すのは案外好きで。『FREEDOM』も1話よりは2話、2話よりは3話……のほうが完成度は高い。まして『FREEDOM SEVEN』はシリーズ最高のクオリティと表現力がある。でもやっぱり1話には1話の元気の良さ、勢いがあって、完成度はまだまだなんだけど、すごく勢いを感じる。それは『FREEDOM SEVEN』にはないものだと思うんです。だからこそ、次はまたゼロ――初心に戻って、『FREEDOM SEVEN』より勢いのある作品に挑みたいですね。そのために「また初心に戻ってやるぜ!」というのがいまの正直な心境です。

――『FREEDOM』シリーズおつかれさまでした。次回作も期待しています。

森田 ありがとうございます。いまはとにかく早く次の作品が作りたいですね(笑)。